ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは、バロック時代を代表するイタリアの芸術家として知られています。彼は彫刻、建築、都市計画など多彩な分野で才能を発揮し、ローマの街並みに数々の傑作を残しました。
その作品は、ドラマティックな表現と豪華な装飾が特徴で、多くの人々を魅了しています。本記事では、彼の代表的な作品やキャリア、そしてその影響について探っていきます。
基本的な情報
- フルネーム:ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini)
- 生年月日:1598年12月7日
- 死没月日:1680年11月28日
- 属する流派:バロック
- 国籍:イタリア
- 代表作(彫刻):
- 「プロセルピーナの略奪」(1621年 – 1622年)
- 「ダヴィデ」(1623年 – 1624年)
- 「聖テレジアの法悦」(1647年 -1652年)
- 代表作(建築):
- 「サン・ピエトロ大聖堂祭壇天蓋」(1624年 – 1633年)
- 「パラッツォ・バルベリーニ」(1628年 – 1638年)
- 「サン・ピエトロ広場」(1656年 – 1667年)
生涯
若年期と初期の仕事
ベルニーニは、1598年12月7日にナポリで生まれました。彼の父はマニエリスム彫刻家のピエトロ・ベルニーニで、母はアンジェリカ・ガランテというフィレンツェ出身のナポリ人でした。若いベルニーニは、芸術的才能が非常に早熟だったため、「神童」として称賛され、父からも奨励を受けました。
彼は幼少期から既に芸術の才能を発揮し、ローマへ移住した後、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿などの重要な後援者からも注目を集めるようになりました。ボルゲーゼ枢機卿の支援のもと、ベルニーニは彫刻家としての才能を急速に開花させ、古典彫刻の修復など初期の作品で名声を得ました。
初期の代表作として「アエネアース、アンキーセース、アスカニオ」、「プロセルピナの略奪」、「アポロンとダフネ」、「ダヴィデ」などが挙げられます。これらの作品は、彼のダイナミックな表現力と卓越した技術を示しており、バロック様式の彫刻の新しい基準を確立しました。
また、肖像彫刻でもその才能を発揮し、教皇パウルス5世やリシュリュー枢機卿などの著名人の胸像を手掛けました。ベルニーニの若年期と初期の仕事は、その後のキャリアの成功と、彼がバロック芸術の巨匠となる道を示唆するものでした。
ローマでのキャリアと教皇との関係
ローマにおける活動を通じて、ベルニーニは教皇との深い関係を築きました。彼の才能は早くから認識され、特に教皇ウルバヌス8世との関係が彼のキャリアに大きな影響を与えました。
ウルバヌス8世のもとでベルニーニは、サン・ピエトロ大聖堂のバルダッキーノの製作をはじめ、多くの重要なプロジェクトに関与しました。この大聖堂のバルダッキーノは、彼の代表作の一つとされ、ローマバロック芸術の象徴とも評されています。
さらに、ベルニーニは教皇アレクサンダー7世の治世下でも活躍を続け、サン・ピエトロ広場の設計など、ローマ市街の美観向上に寄与しました。
彼の建築と彫刻の作品は、教皇の政治的な意志やカトリック教会の教義を視覚的に表現する手段としても機能しました。このように、ベルニーニの作品は単なる芸術作品であるだけでなく、ローマという都市の文化や宗教のアイデンティティを形作る要素となっています。
代表作(彫刻)
「プロセルピーナの略奪」(1621年 – 1622年)
「プロセルピーナの略奪」は、ベルニーニの最も有名な作品の一つで、1621年から1622年にかけて制作されました。ローマ神話の一場面を描いたこの彫刻では、冥界の王プルートが女神の娘プロセルピーナを略奪する瞬間が生々しく表現されています。作品の迫力と躍動感は、見る者に強い印象を与えます。
ベルニーニは、この作品で大理石を驚くほどリアルに彫刻しました。プルートの手がプロセルピーナの柔らかな肉体に深く食い込んでいる様子は、まるで石でできているとは思えないほどリアルです。プロセルピーナの表情は驚きと恐怖に満ちており、その繊細な表現は、ベルニーニの卓越した技術と心理描写の能力を示しています。
「ダヴィデ」(1623年 – 1624年)
「ダヴィデ像」は、1623年から1624年にかけて制作された大理石の彫刻作品で、彼の初期の傑作の一つです。この彫刻は、旧約聖書の物語に登場する若き英雄ダヴィデが、巨人ゴリアテと戦う直前の瞬間を描いています。
ダヴィデの姿を非常にリアルに表現し、その筋肉や衣服の動きを巧みに再現しています。また、彼の手によるダヴィデ像は、古代ギリシャ・ローマの彫刻の影響を受けつつも、当時の他の芸術家たちの作品とは一線を画すものでした。
ベルニーニの「ダヴィデ像」は、バロック彫刻の代表作として広く認知されており、その芸術的な卓越性とドラマチックな表現力は、今なお多くの人々に感動を与えています。
「聖テレジアの法悦」(1647年 -1652年)
「聖テレジアの法悦」は、ローマのサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会に設置されています。この作品は、カルメル会の修道女であり聖女であるアビラのテレサの神秘体験を描いています。
ベルニーニは、白い大理石を用いて、天使がテレサの心臓を矢で貫く瞬間を捉え、その光景を浮かび上がらせるように演出しました。作品は、彫刻、建築、照明を巧みに融合させたもので、礼拝堂全体が一つの演劇舞台のように見えるようにデザインされています。
代表作(建築)
「サン・ピエトロ大聖堂祭壇天蓋」(1624年 – 1633年)
サン・ピエトロ大聖堂のバルダッキーノは、ベルニーニがバロック様式で設計した傑作です。バルダッキーノとは、大聖堂の祭壇を覆う巨大な天蓋のことで、ベルニーニが手がけたものは高さが約29メートルにも及びます。
この作品は、教皇ウルバヌス8世の依頼で、1624年から1633年にかけて製作されました。四本のらせん状の柱は、金メッキされた青銅で作られており、柱の基部にはベルニーニのパトロンであったバルベリーニ家の紋章である蜂が装飾されています。
「パラッツォ・バルベリーニ」(1628年 – 1638年)
パラッツォ・バルベリーニ(Barberini Palace)は、ローマのバロック建築の代表的な建物の一つで、ベルニーニとフランチェスコ・ボッロミーニが共に設計した宮殿です。この宮殿は、教皇ウルバヌス8世がバルベリーニ家に贈り、1628年から1633年にかけて建てられました。
この宮殿の魅力の一つは、その広大な庭園で、ローマの景観と調和しつつも、独自の美しさを持っています。また、宮殿内の壮大な階段や、美しい装飾が施された大広間など、ベルニーニとボッロミーニの異なる建築スタイルが調和して一体となった様子が見どころです。
特に有名なのは、ピエトロ・ダ・コルトーナによって描かれた天井画「神々の饗宴」で、この天井画は、豪華な装飾と繊細なディテールが特徴で、バロック時代の芸術の華やかさと力強さを感じさせます。
「サン・ピエトロ広場」(1656年 – 1667年)
サン・ピエトロ広場は、ベルニーニが設計したバチカン市国にある壮大な空間です。1656年から1667年にかけて建設され、広場のデザインは2つの巨大な半円形の列柱で構成されています。この広場は、サン・ピエトロ大聖堂の正面に広がる不規則で未整備な空間を、美しく秩序立った場所に変えました。
広場の列柱は、それぞれ4本の単純な白いドーリア式柱で形成されており、訪れる者を抱擁するかのような「腕」として表現されています。
ベルニーニは、広場のデザインを通してバチカン市国の象徴的な偉大さを強調し、その空間を視覚的に魅力的で感情的に豊かなものにしました。この広場は、ローマの都市計画における重要なランドマークです。
ベルニーニはなにがすごい?
彫刻におけるドラマティックな表現
彼の作品は、物語性とエネルギーに満ち溢れ、鑑賞者に深い感動を与えます。彼の彫刻は、単なる石の彫刻ではなく、物語の一瞬を切り取り、その中に生きるキャラクターの心理や感情を生々しく表現しています。
ベルニーニの作品は、物語のクライマックスを捉え、鑑賞者をその世界に引き込むことで、彫刻におけるドラマティックな表現を極めています。
統合された芸術作品:建築と彫刻の融合
彼はバロック時代を代表するイタリアの彫刻家、建築家、画家であり、その才能を活かして、建築と彫刻の融合による統合された芸術作品を生み出しました。彼の代表作である「聖テレサの法悦」は、その顕著な例です。
この作品は、ベルニーニが建築と彫刻を組み合わせて創り上げた傑作で、彫刻、建築、フレスコ画、漆喰、照明を一体化させた美しい空間を生み出しています。彫刻は、アビラの聖テレサが神と一体となり、心を刺し貫く喜びの瞬間を表現しており、そのリアルな表情や姿勢は彫刻の技術を示しています。
エピソード
芸術と政治:バロック時代のローマでの役割
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは、バロック時代のローマで芸術と政治の関係を象徴する重要な人物でした。彼の時代のローマは、宗教改革に対抗する反宗教改革運動の中心であり、その中でベルニーニは、カトリック教会の強化と栄光のために、その芸術的才能を存分に活かしたのです。
ベルニーニは数多くの教皇や枢機卿と密接に関わり、彼らの後援のもとで、サン・ピエトロ大聖堂やナヴォーナ広場などの重要な建築・彫刻作品を制作しました。
ベルニーニの作品は、宗教的なメッセージを伝えると同時に、教皇や教会の権威を強調する役割を果たしました。また、彼の公共広場の設計は、教会の影響力をローマの街全体に広げるものでした。
ベルニーニのパトロン:教皇との関係
教皇との関係が彼のキャリアにおいて重要な役割を果たしました。特に、教皇ウルバヌス8世の時代には、ベルニーニは「教皇美術コレクションのキュレーター」や「サン・ピエトロ大聖堂の建築家」といった重要な役職に任命され、数多くのプロジェクトに従事しました。彼の傑作であるサン・ピエトロ大聖堂のバルダッキーノや、ウルバヌス8世の墓もこの時期の作品です。
しかし、教皇イノケンティウス10世の時代には、ベルニーニの勢いは一時的に衰えました。サン・ピエトロ大聖堂の鐘楼の設計で亀裂が発生したことがスキャンダルとなり、彼の評判に影響を与えました。しかし、その後、ローマのナヴォーナ広場にある四大河の泉を制作したことで、彼は再び評価を取り戻しました。
現代の視点から見たベルニーニの評価
ベルニーニは、バロック時代を代表する芸術家として、その影響力が現代にまで及んでいます。彼の彫刻、建築、都市計画の多彩な作品は、視覚芸術の可能性を大いに広げました。
ベルニーニの作品は、動きや感情を巧みに表現し、劇的な表現と精巧な細工によって人々を魅了しました。彼の彫刻は、ただの美しい形ではなく、物語や情感を伝える生きた存在のように見えます。また、建築家としても、サン・ピエトロ大聖堂のバルダッキーノやサン・ピエトロ広場など、ローマの景観に欠かせない名所を多く残しました。
作品が見れる場所
ローマのベルニーニ作品ツアー
ローマは、ベルニーニの作品を巡るための理想的な都市です。彼の傑作の数々が街中に点在しており、彫刻や建築の芸術を堪能することができます。
まず、代表作である「サン・ピエトロ大聖堂祭壇天蓋」は、バチカン市国に位置するサン・ピエトロ大聖堂の中心にあります。高さ29メートルに及ぶ巨大な天蓋は、ベルニーニの初めての建築作品であり、その壮大なスケールと緻密な装飾は圧巻です。
次に、「四大河の泉」は、ローマのナヴォーナ広場にある美しい噴水です。この作品は、4つの大陸を流れる大河を擬人化したもので、ベルニーニの独創的なアイデアが詰まっています。また、スペイン広場の「バルカッチャの噴水」も彼の作品であり、そのユニークなデザインは観光客の目を引きます。
さらに、「聖テレジアの法悦」は、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会堂にある美しい彫刻です。ここでは、聖女テレジアが神と出会い、その喜びに満たされる奇跡の場面が見事に表現されています。
ローマに訪れた際は、これらのベルニーニ作品を巡るツアーを楽しみ、彼の卓越した芸術の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
日本でベルニーニは見れる?
日本でも、彼の作品を見ることができる美術館がいくつか存在します。東京都の国立西洋美術館では、ベルニーニの彫刻やデッサンが展示されています。
また、他の美術館でも彼の作品が特別展や企画展で展示されることがあります。ベルニーニの彫刻や建築の素晴らしさを直接感じる機会は、芸術愛好家にとって貴重な体験となるでしょう。
まとめ
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは、バロック時代の芸術家として、彫刻や建築で革新的な作品を生み出し、多くの人々に影響を与えました。彼の作品は、感情豊かでダイナミックな表現が特徴であり、その独創性は現代に至るまで評価されています。
ローマに残された彼の傑作は、訪れる人々に深い感動を与え、彼の遺産は今なお輝いています。ベルニーニの作品を鑑賞することで、バロック芸術の豊かさと美しさを感じることができるでしょう。
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