モード・ルイス|カナダのフォークアートの巨匠

モード・ルイスはカナダのフォークアーティストであり、その独特の絵画スタイルで多くの人々を魅了しました。彼女の作品は鮮やかな色彩とシンプルなデザインで特徴づけられ、動物、風景、花などのテーマが多く取り上げられています。彼女の人生は困難に満ちていましたが、その中でも彼女の絵画は愛と喜びに満ちており、多くの人々に希望を与え続けています。この記事では、モード・ルイスの生涯と作品について詳しく見ていきます。

基本的な情報

  • フルネーム:モード・キャスリーン・ダウリー・ルイス(Maud Kathleen Dowley Lewis)
  • 生年月日:1903年3月7日
  • 死没月日:1970年7月30日
  • 属する流派:フォークアート
  • 国籍:カナダ
  • 代表作:
  • 『春の牛』
  • 『白猫の肖像と額装された封筒』

生涯

早期の人生と教育

モード・ルイスの初期の人生は、彼女の芸術的な才能と困難な環境に大きく影響を受けました。1903年3月7日、カナダのノバスコシア州ヤーマス郡で生まれた彼女は、幼少期から関節リウマチに苦しみました。この病気は手足の動きを制限し、体も小さく成長しました。

彼女の家庭は中産階級でしたが、父親ジョン・ダウリーが鍛冶屋兼馬具職人として働いていたため、比較的安定した生活を送ることができました。母親アグネス・ダウリーは、ルイスに対して深い影響を与えた人物で、彼女に絵を描く楽しさを教えました。

学校には通っていましたが、身体的な制約と社会的な差別により、途中で学校を辞め、家庭で教育を受けるようになりました。彼女は家族と過ごす時間を大切にし、特に母親と一緒にクリスマスカードを作り、それを売ることで初めての収入を得ました。これが彼女の芸術家としての第一歩でした。

1935年に父親が、1937年には母親が亡くなり、彼女の生活は一変しました。兄の家にしばらく住んだ後、叔母の家に移り住むことになりました。このような困難な状況の中でも、ルイスの芸術に対する情熱は消えることはなく、彼女は次第に自分のスタイルを確立していきました。

結婚とキャリアの始まり

モード・ルイスが結婚し、キャリアをスタートさせた時期は、彼女の人生における重要な転機でした。1938年、彼女はノバスコシア州マーシャルタウンの魚行商人エヴェレット・ルイスと結婚しました。

この結婚により、彼女の創作活動が本格的に始まります。エヴェレットはルイスの絵画活動を大いに支援し、彼女のために初めての油絵セットを購入しました。彼は自分の魚の販売と並行して、ルイスの描いたポストカードや小さな絵画を販売するようになり、地元での評判を高めました。また、家の内外のあらゆる場所に絵を描き始め、特に家庭用品や家具に色鮮やかな絵を描くことで知られるようになりました。

こうして、結婚と共に始まったモード・ルイスの芸術活動は、徐々に広がりを見せ、後にカナダ全土で愛されるフォークアーティストとしての地位を確立することになります。

代表作

「春の牛」

「春の牛」は、彼女の絵画の特徴をよく表しています。この作品は、春の暖かい陽気の中で牧草地に佇む牛を描いています。鮮やかな緑色の草原、明るい青空、そしてカラフルな花々が、彼女の得意とする明るく陽気な色彩感覚を存分に引き立てています。

牛の姿はシンプルで、滑らかな線と大きな面積の色使いによって表現されており、ユーモラスで親しみやすいキャラクターに仕上がっています。背景には、のどかな田舎の風景が広がり、自然の中で自由に過ごす動物たちの幸福感が伝わってきます。

この作品は、ルイスの生活環境と深い関わりがあり、彼女が日常的に目にしていた光景をそのままキャンバスに移したものと言えるでしょう。ルイスの絵画には、複雑な技法や抽象的な概念はありませんが、そのシンプルさゆえに見る人々に暖かさと安心感を与えます。

「白猫の肖像と額装された封筒」

モード・ルイスの作品の中で特に注目されるのが「白猫の肖像」と「額装された封筒」です。彼女の独特のスタイルと明るい色彩は、この2つの作品に顕著に表れています。「白猫の肖像」は、彼女の多作な動物画の一例で、愛らしい白猫が明るい背景の中で描かれています。

猫の柔らかな毛並みや愛らしい表情が、ルイスのシンプルでありながらも温かみのある筆致によって生き生きと表現されています。

一方、「額装された封筒」は、日常の中の小さな美を捉えた作品です。この作品では、封筒が額装され、カラフルな装飾が施されています。

ルイスの作品には、こうした日常の中のシーンが頻繁に登場し、彼女の目に映る美しさを伝えています。これらの作品は、彼女の素朴でありながらも深い芸術的感性を物語っています。どちらの作品も、見る者に暖かさと幸福感を与えるものであり、彼女のフォークアートの魅力を象徴しています。

作風の特徴

使用する色と素材

モード・ルイスは、絵画制作において非常にユニークな素材と技法を使用しました。彼女は主に壁板やパルプボード、メソナイトなどの手軽に手に入る材料を使用しました。これらの素材は彼女の手法に適しており、小さな面積にもかかわらず、彼女の独特なスタイルを生かすためのキャンバスとして機能しました。彼女の作品は、家の壁、ドア、さらには家具にまで描かれており、家全体がまるで一つの大きな作品のように見えました 。

色使いについては、ルイスは明るく鮮やかな原色を多用しました。彼女は絵の具のチューブから直接キャンバスに色を乗せる技法を用い、色を混ぜることはありませんでした。この手法により、彼女の作品は鮮明で力強い印象を与えます。遠近法は使用されることがあるものの、影を描くことはなく、全体的にフラットでシンプルな構成が特徴です。このようなスタイルは、彼女の作品に独特の素朴さとユーモラスな雰囲気をもたらしています 。

表現技法

また、彼女の作品には遠近法がほとんど使われず、影も描かれていないため、非常にシンプルで素朴な印象を与えます。このような描き方は、彼女の体の不自由さと、絵を描く際の制約から生まれたものでした。しかし、それがかえって作品に一貫したスタイルを与え、観る者に強い印象を残します。

さらに、彼女の絵のモチーフには、田舎の風景や動物、草花などが多く取り上げられています。これらのモチーフは、彼女が住んでいたノバスコシアの風景や生活に深く根ざしており、観る者に彼女の生活の一端を垣間見せるものです。特に動物の描写においては、ユーモラスで愛らしい表現が特徴的であり、ルイスの絵画に親しみやすさを与えています。

逸話とみどころ

モード・ルイスと夫エヴェレットの関係

モード・ルイスと夫エヴェレットの関係は、彼女の人生と芸術において重要な役割を果たしました。1938年に結婚した二人は、ディグビー郡のマーシャルタウンにある小さな家で貧しいながらも充実した生活を送りました。

エヴェレットはルイスが絵を描くことを強く支援し、家事全般を引き受けるなど、彼女の創作活動を支えました。エヴェレットが魚を売るために訪れる顧客には、ルイスのポストカードや絵画も一緒に売られ、徐々に評判が広がりました。エヴェレットの献身的なサポートがなければ、モードの才能は世に出ることがなかったかもしれません。

彼女の絵は次第に人気を博し、多くの人々に愛されるようになりましたが、その背後には常にエヴェレットの協力と愛情がありました。二人の絆は非常に強く、ルイスはエヴェレットを誇りに思っていました。エヴェレットの存在が、彼女の創作活動とその成功に欠かせないものであったことは間違いありません。

アメリカ大統領への作品の注文

1960年代に入ると、モード・ルイスの名声はカナダ国内外で高まっていきました。彼女の温かみのあるフォークアート作品は、多くの人々の心を捉えましたが、その中でも特に注目を集めたのはアメリカ合衆国の大統領、リチャード・ニクソンからの注文でした。

1965年、彼女の作品がカナダ国内のメディアで取り上げられたことをきっかけに、彼女の名前は一躍全国区となり、その評判は国境を越えて広がりました。

ニクソン大統領は、モード・ルイスの描く素朴でありながら鮮やかな風景画に魅了され、彼女の作品をホワイトハウスのコレクションに加えることを希望しました。これはルイスにとって大きな名誉であり、彼女の作品がさらに多くの人々に知られるきっかけとなりました。

大統領からの注文は、彼女の作品の価値を大いに高め、その後の注文にも大きな影響を与えました。モード・ルイスの作品は、政治家や著名人を含む幅広い層から支持を受け、彼女の名声はますます高まりました。

評価

カナダのフォークアートにおける位置

モード・ルイスはカナダのフォークアートにおいて特別な位置を占める存在です。彼女は正式な美術教育を受けていないにもかかわらず、その独自のスタイルで多くの人々に愛され続けています。特に彼女の作品には、カナダの風土や文化が色濃く反映されており、ノバスコシア州の風景や地元の人々、動物たちが生き生きと描かれています。

ルイスの絵画は、カナダの郷愁を呼び起こすと同時に、彼女自身の苦しい生活を反映しており、見る者に深い感動を与えます。彼女の作品は、1960年代から1970年代にかけて全国的な注目を集め、多くの展覧会やメディアで取り上げられました。その結果、カナダ国内だけでなく国際的にも評価されるようになりました。

時代を超えた人気

彼女は生前だけでなく、死後も多くの人々に愛され続けています。彼女の絵画は、カナダの田舎の風景や動物を明るく温かみのある色彩で描き、見る者に安らぎと幸福感を与えます。その素朴でありながら独特なスタイルは、現代の芸術愛好家やコレクターにも強い影響を与えています。

彼女の作品は今なお、オークションで高値で取引されており、その価値は年々増しています。また、彼女の生涯を描いた映画『しあわせの絵の具』は、モード・ルイスの名をさらに広める一助となりました。

彼女の家は、ノバスコシア美術館に移築され、訪れる人々が彼女の作品と共にその生活空間を体験できるようになっています。このように、モード・ルイスの芸術は時代を超え、多くの人々に感動を与え続けています。

作品が見れる場所

ノバスコシア美術館

ノバスコシア美術館は、カナダのノバスコシア州に位置する重要な文化施設であり、特にモード・ルイスの作品を中心に多くの注目を集めています。この美術館は、ルイスの作品だけでなく、彼女が実際に暮らしていた家をも展示しており、その家は完全に修復されて美術館の中心に設置されています。モード・ルイスの家は、その独特な装飾と彼女の作品で彩られた内部空間が、彼女の芸術的なビジョンを訪れる人々に直接伝える場所となっています。

美術館は、ルイスの絵画の展示だけでなく、彼女の生涯や作品の背景についても詳しく紹介しており、訪れる人々に彼女の人生とその作品がどのようにして生まれたのかを深く理解させるための情報を提供しています。ルイスの絵画は、明るい色彩とシンプルなタッチで知られ、田舎の風景や動物、草花などを描いたものが多く、これらの作品が美術館のコレクションとして所蔵されています。

ノバスコシア美術館はまた、ルイスの家を保存し、彼女の作品を展示するための資金調達や修復活動にも力を入れており、地域の文化遺産としての重要性を強調しています。美術館の努力によって、ルイスの芸術は次世代に受け継がれ、彼女の独特な視点が訪れる人々に感動を与え続けています。

まとめ


モード・ルイスは、カナダのフォークアートを代表するアーティストとして、その独特のスタイルと温かい作品で広く知られています。彼女の絵画は、鮮やかな色彩とシンプルな描写で田舎の風景や動物を描き、観る者に喜びと安らぎを提供します。エヴェレットとの愛に支えられた彼女の創作活動は、多くの人々に影響を与え続けています。

ノバスコシア美術館を訪れることで、彼女の作品とその生活環境を直接体験することができ、彼女の芸術に対する理解を深めることができます。モード・ルイスの遺産は、時代を超えて多くの人々に愛され続け、その温かい作品は今後も人々の心に響き続けるでしょう。

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